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夢美
 「うぅっ!!」

右肩に激痛が走り、夢美は声を出して呻いた。
軽く身をよじり、両肩を強張らせる。
その時初めて、自分が床に寝かされているのだと気付いたが、
突如襲ってきた激痛の前ではどうでもいい事だった。

まるで、焼けた火箸を押し付けられたような、そんな熱とともに
痛みは加速度的に増してくる。

レン
 「暫くは痛むと思いますが、死ぬよりはマシでしょう」

レン
  「その蟲に感謝する事ですね」

痛みと熱の影響で、夢美の額に大量の汗が噴き出す。
まるで皮膚の内側に手を突っ込まれて、肉を掻き回されているような感覚に、
吐き気とおぞましささえ感じ始めていた。
怪我か病気か――少なくとも、今まで夢美が体験した事のない刺激が、
右肩を中心に広がっている。

夢美
 「かっ……は……あ、あぁっ………………!」

痛みが恐怖を呼び、恐怖が混乱を運ぶ。
思考がバラバラに砕け散り、瞳から涙が零れ落ちた。
「痛い」などという言葉では表せない痛みが、じわじわと夢美の体を蝕んでいく。

――おかしい。

右肩から広がる痛みが、ある一部分にだけ届かない。
全身が悲鳴を上げるほどの激痛だというのに、何故だか右腕に伝わっている
感覚がない。

夢美
 「――――――――――――――――――――ッ!」

呼吸さえままならない状態で、上半身を起き上がらせる。
耐え難い痛みよりも、その原因が分からない事のほうが怖かった。

目線は、自然と右肩へ向けられ、そして――――――

夢美
 「…………………………………………………………」

その時の衝撃を、一体何と表せばいいのか。

右腕から先が『無』いのではない。
右腕から先に『何か』が『在』った。

まるで、海中に生えた珊瑚のような、網目状の不気味な形をしたものが、
夢美の右肩から先に引っ付いている。
細長い枝のような部分がミミズの如くうねり、互いに絡み合って常にその形を
変えていた。

夢美
 「あ…………え………………………………?」

喉から絞り出すようにして、声が出る。
右肩の先にあるものをじっと凝視するが、やはり理解には至らない。
夢美の持っている知識を総動員しても、これが怪我なのか病気なのかさえ
分からなかった。

夢美
 「あぅ……あ、あぁ…………ぁぁぁ………………」

耐え難かったはずの激痛が、次第に恐怖に上塗りされていく。
右肩を振って『何か』を払いのけようとしたが、枝の部分が揺れるだけで、
大した変化は生まれなかった。
ぐちゅり、と粘着質の音が聞こえる。
赤黒い枝と枝が絡み合って、糸を引きながら一本の太い枝に変わっていく。
それはまるで、夢美の右腕の代わりに、何か別の生物が生え変わろうとしているような、
そんな光景にさえ見えた……。

夢美
 「ひ…………………………ッ!」

顎を引いて、右肩から先にある『何か』から逃げる。
果たして、この生物をどうするべきか――――

――引きちぎるべきか放っておくべきか、夢美は可能なかぎりの思考力を掻き集めて
考えた。


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