水族館は特別なショーがあるということで、
それなりの人ごみだった。
俺と華原先輩はごく自然に手を繋いで、水族館を回った。

タコのショーは意外と面白く、華原先輩と二人で
興奮してしまったぐらいだ。
餌やりとか擬態実験とか……いや、タコの話は置いておこう。
奥が深いことがわかっただけで俺には十分だ。

そのショーが終わると、俺たちは通常展示である
水槽を時間をかけてゆっくりと見た。
マグロの回遊や、サメの水槽、熱帯魚の群れ。
ペンギンの水槽に、深海魚の暗い世界。
影月近辺に住む魚のコーナー。

先輩は水族館に来たのも初めてだという。
泳ぐ魚に目をきらきらとさせて眺める。
その姿は本当に子どものような純粋さで。

色鮮やかな熱帯魚の水槽で先輩は30分も立ち止まっていた。
立ち止まる気持ちもわかる。
俺も意識を水槽に預けるように一緒に眺めていた。

ひらひらと泳ぐ姿は蝶を連想させた。
水槽の中を舞う蝶。舞う花びら。

【綾乃】
  「この水槽の中のお魚は、水槽の中で
一生を終えるのかしら……」

【綾乃】
 「外の海を泳ぎたいって思っているのでしょうか〜」

呟くように華原先輩が言った。
微かな、本当に微かな声が俺の耳に届いた。