【音美】 
                           「うみゅ〜〜〜♪ どうちたんでちゅか〜?」 
                        音美が。 
                          しゃがみこんで、猫にちょっかいを出している。 
                          猫じゃらし――エノコログサは、今の季節には 
                          まだ実を結んでないから。 
                          音美が手にしてるのは、庭園の木から折り取った 
                          ネコヤナギの枝だ。 
                        【音美】 
                           「おなか空いてるんでちゅか〜? うりうり〜?」 
                        【司颯】 
                           「ぁ…………猫、か」 
                        【架威】 
                           「うむ」 
                        【音美】 
                           「むふふぅ〜♪ カワイイでちゅねぇ〜」 
                        ご満悦である。 
                        目を細め、めったに見せないような満面の笑みを浮かべて、 
                          枝を猫の目の前で振っている。 
                          ――それにしても。 
                        この、猫を相手にすると途端に幼児語を使うっつーのは、 
                          いったいどういうシステムになってるんだろうか。 
                          音美は、猫を比護欲の対象にしてるのか。 
                          女性の多くが赤ん坊に対して、理屈抜きの愛情を 
                          感じるように……。 
                        なんつーか、猫と『交信』状態になってる……。 
                          こうなるともう、しばらくは見守ってるよりほかに方法がない。 
                        【猫】 
                           「フミャウ〜〜〜、ニャルニャル…………!」 
                        猫もまた猫で、音美がじゃれるんだから、つき合って 
                          やりゃあいいものを、あからさまに警戒感をむき出しにしている。 
                          白地に黒い虎縞で、野良生活が長いらしく精悍な顔と 
                          身体つきを有していた。 
                        【音美】 
                           「ふふふ……うり? うりうり? えいっ!」 
                        ついに。 
                          音美は猫を捕まえ、ギュッと抱きしめてしまった。 
                        なでなでなでなで…… 
                        さわさわさわさわ………… 
                        ごろごろごろごろごろ………… 
                        愛撫の限りをつくして玩弄する。 
                          猫にしてみりゃイイ迷惑だ。 
                        【音美】 
                           「はうぅ、可愛いねぇ〜♪ このまま、お持ち帰りしちゃいたいよ〜」 
                        【架威】 
                           「ううっ……わが妹ながら不憫な……」 
                        架威が泣く真似をしている。 
                        【司颯】 
                           「すっかり魂を奪われちまってるな……」 
                        
                        と、架威が溜息をつく。  |